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長崎地方裁判所 昭和24年(行)1号・昭24年(行)2号 判決

原告 堀内弘 外一名

被告 長崎県農地委員会

一、主  文

被告が昭和二十三年十一月十二日附で別紙表示の農地に対してした訴願の裁決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

一、原告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として陳述する要旨は次のとおりである。

(1)  別紙目録表示の農地はもと訴外橋本清四郎の所有であつたが、訴外大村市竹松地区農地委員会(以下地区委員会という)が昭和二十二年七月二十四日、自作農創設特別措置法(以下法といゝ同法施行令を令という)第三條第一項第一号に基いて定めた買收計画により、買收処分を経て政府の所有となつたものである。その後昭和二十三年五月十七日同委員会が、目録(一)の農地について原告堀内、(二)の農地について原告山下を、夫々賣渡の相手方として賣渡計画を定めたのであるが、之に対し訴外南平四郎が同委員会に異議を申立て、更に被告に訴願を提起して、同人に賣渡されるべきことを求めたところ、被告は同年十一月十二日、同人に賣渡すのを至当と認めるとの理由で右訴願を認容する裁決をした。

(2)  然し、南はかつて橋本清四郎から目録表示の農地を賃借耕作していたことがあるが、昭和十八年頃その耕作をやめて之を橋本に返還したのであり、昭和二十年九月に至つて原告堀内が目録(一)の農地を、原告山下が(二)の農地を、夫々橋本から期限の定めなく賃借して、引きつゞき現在まで之を耕作しているのであるから、右各農地はその買收時である昭和二十二年七月二十四日当時の小作農である原告等に対して賣渡されるべきものであつて、南が賣渡を受ける筋合ではない。從つて、被告が同人の訴願を認容した裁決は違法の処分であり、原告等は之によつて権利を侵害されるから、その取消を求めるため本訴に及んだ次第である。

(3)  被告の出訴期間経過の抗弁は否認する。法第四十七條の二に言うところの当事者とは、行政処分の相手方のことであつて、本件では南平四郎であり、原告等ではない。原告等の出訴期間は行政事件訴訟特例法に定める六箇月である。その上、原告等が本件裁決のあつたことを知つたのは本訴提起の日であるから、本訴は法定期間内に提起された適法のものである。

(4)  その他の抗弁事実はすべて否認する。

二、被告指定代理人の陳述の要旨は次のとおりである。

(1)  先ず本案前の抗弁として、請求原因の(1)の事実はすべて之を認めるが、原告等は昭和二十三年十二月七日被告に対して本件裁決に対する再審議願を提出して居り、当時すでに右裁決のあつたことを知つたものであるから、その日から起算し、一箇月の出訴期間を超えて提起された本訴は不適法である。又、原告の請求の趣旨は、被告が目録表示の農地を南平四郎に賣渡す旨裁決したからその取消を求めると言うのであるが、被告は單に、右農地を同人に賣渡すのが至当であるとの理由で、その訴願を認める旨裁決したにすぎず、同人に対する賣渡計画をも併せて定めたのではない。右賣渡計画は今後更めて地区委員会で定められるものである。從つて原告は存在しない行政処分の取消を求めるものであつて、此の点においても本訴は不適法である。

(2)  次に本案に対する答弁として、原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする、との判決を求める。請求原因の(2)の事実の内、目録表示の農地を以前南が橋本清四郎から賃借耕作していたこと、原告堀内が目録(一)の農地、原告山下が(二)の農地を、夫々昭和二十年九月から現在まで耕作していることは何れも認めるが、その余の事実は之を爭う。

(3)  抗弁として、南は昭和二十年九月頃、病気にかゝつて耕作ができなくなつたため、目録表示の農地を原告堀内に一時轉貸し、原告堀内がその内の(二)の農地を原告山下に再轉貸し、その結果原告等が之を耕作する様になつたのである。然し既に南は病気も癒り、近く自ら耕作するものと認められるので、被告は法第十六條、令第十七條第一項第五号により、南に賣渡すのを至当として同人の訴願を認容する裁決をしたのであつて、原告の主張する様な違法は少しもない。

(4)  なお、本件裁決書謄本は南に対してのみ送達され、その他の者に対しては裁決を告知する手続は執られていない。(証拠省略)

三、理  由

一、別紙目録表示の農地はもと橋本清四郎の所有であつたが、昭和二十二年七月二十四日地区委員会が法第三條第一項第一号に基いて定めた買收計画により、買收処分を経由して政府の所有に移つたものであること、同委員会が昭和二十三年五月十七日目録(一)の農地について原告堀内、(二)の農地について原告山下を、夫々賣渡の相手方として賣渡計画を定めたが、南平四郎が之に対して異議を申立て、更に被告に訴願を提起し、その結果被告は同年十一月十二日、同人に賣渡すのを至当と認めるとの理由で右訴願を認容する裁決をしたことはすべて当事者間に爭がない。

二、そこで先ず被告の本案前の抗弁について檢討する。

(1)  原告等は、法第四十七條の二に言う当事者とは行政処分の相手方を指すのであるが、原告等は本件裁決の当事者でなく、然も本訴の出訴期間は六箇月であるから、本訴提起当時はまだ出訴期間を経過して居ないと主張するが、法第四十七條の二に言う当事者とは訴の当事者を指すと解するのが、文理上並びに條理上相当であるから、右の主張は採用できない。然しながら本件裁決が原告等に対し、公法上の手続として告知されていないことは被告の自認するところであり、此の点になお檢討の余地があると思われる。即ち原処分である地区委員会の賣渡計画決定は原告等に対する設権処分であるが、本件裁決は之を取消す効力をもつものであるから、右裁決によつて原告等の権利義務は直接にその影響を蒙り、此の意味では原告等を右裁決の実質上の当事者と称しても過言ではない。然も斯様なことは裁決の当時被告において分明の事実であるから、被告は南平四郎に対すると同様原告等に対しても右裁決を告知すべきこと條理上当然であつて、之を原告等が私的に了知するものとして放置すべきではないのである。よつて右裁決は、それが原告等に対して告知されない限り、原告等に対する関係では完全な効力を発生せず、從つて之に対する不服の訴の出訴期間もその進行をはじめないと解するのを相当とする。そうであるとすれば、原告等のこの点に関する主張は結局正当に帰し、本訴の提起が出訴期間経過後であるとする被告の抗弁には俄に應じ難い。

(2)  又原告の請求の趣旨は、本件裁決の結果地区委員会が之に拘束されて、目録表示の農地につき、南を相手方として賣渡計画をたてることになるから、右裁決の取消を求めると言うにあり、右裁決が南を相手方とする賣渡計画を含むものと誤解し、右裁決により南が直ちに賣渡を受けるからその取消を求めると言うのではないから、被告主張の様な不適法の点は存在しない。結局被告の抗弁はいずれも之を採用し難い。

三、よつて進んで本案について檢討する。

(1)  南平四郎がかつて目録表示の農地を橋本清四郎から賃借耕作していたことは当事者間に爭がなく、証人南平四郎、南チヨ、橋本清四郎(第一回)の各証言によると、右農地は元來南平四郎の所有地で、以前は同人が自作していたのであるが、同人はその橋本に対する債務の弁済のために、昭和三年頃之を橋本に賣却し、同年十一月十二日更めて橋本から賃料毎年玄米五俵の約束で期限を定めずに賃借し、その後は右賃借権に基いて之を耕作したことを認めることができる。又、目録(一)の農地を原告堀内が、(二)の農地を原告山下が夫々昭和二十年九月から現在まで耕作していることも当事者間に爭がなく、証人橋本清四郎(第一回)、琴浦民次郎、小林秋雄、田中藤市、南シヅ、清水藤太郎、犬塚一郎の各証言及び原告山下好吉の供述(第一回)によれば、昭和十三年頃、右農地に近接する海軍用地が拡張されたために、右農地は灌漑に不便を來し、その結果水耕ができなくなつたので、当時之を耕作していた南は之を理由として、橋本に賃借耕作をやめる旨を申入れ、橋本も之を諒承し、よつて南との間の賃貸借は終了したが、南の後には之を耕作する者も居なかつたので、右農地はまもなく荒蕪地と化してしまつたこと、その後訴外琴浦民次郎、小林秋雄の両人が、右農地が荒廃しているのを惜しんで、從前の耕作者の南に断り、昭和十八年秋に之を開墾し、同年及び翌十九年の麦を作つたが、同人等は橋本に対しても南に対しても小作料を納めず、又その定めもしなかつたこと、昭和二十年五月頃右農地の近辺に時限爆彈が落下したので、附近に居住する部落民全部は難を避けて疎開し、琴浦も小林も耕作をやめて右農地を抛棄したこと、終戰後原告堀内が復員し、訴外田中藤市、南シヅを介して橋本に対し、右農地が堀内の居住家屋の敷地に接続していることを理由に、之を買取りたい旨申入れ、交渉の末、橋本はその賣却は拒絶したけれども、目録(一)の農地を原告堀内に、(二)の農地を原告山下に夫々賃貸耕作させることを承諾し、賃料を堀内は毎年十五円(但し他の農地の賃料も含む)山下は五円とし、原告等は右賃借権に基いて耕作をする様になつたことを夫々認定するに十分である。

(2)  之に対して被告は、目録表示の農地の賃借権者は南であつて、原告等は南が病気にかゝつたとき同人から右農地を一時轉借したものであると主張し、証人南平四郎、南貞夫、南チヨの各証言によれば、昭和二十年夏頃から秋頃にかけて、南平四郎、その妻訴外南ノイ、弟南貞夫等が何れも病気にかゝつて、働き手がなくなつたことを看取できるけれども、その頃南平四郎が右農地の賃借権者であつたこと、同人が病気を理由に原告等に轉貸したことについては、右各証言中その点に関する部分は前段認定に資した各証拠との対照上何れも信用し難く、又証人橋本清四郎の証言(第一、二回)によつて眞正に成立したと認める乙第二号証(農地の所有権を有するものゝ申告書)の南が目録表示の農地の小作者である旨の記載は、右証言により、原告等を小作者と書くべきものゝ誤記であることが認められるから、何れも被告の右主張を肯定するに足りない。更に証人南平四郎、内海三次郎、満居徳見、村富善一の各証言によると、昭和二十三年八月頃橋本及び同人の依頼をうけた訴外福田茂太郎、福田三之助、内海三次郎、満居徳見等が南をその住居に訪ねて、南の小作している橋本所有の農地を橋本に返還してくれと申入れた事実が認められるが、前示乙第二号証及び証人橋本清四郎の証言(第二回)によれば、右返還を要求した農地の内には目録表示の農地が含まれていなかつたことが窺えるから、右の要求した事実を以て南が当時右農地の賃借権を有していたと断定するのは早計であり、その他に適確な証拠はない。從つて被告の主張は之を採用することができない。

(3)  以上要するに目録表示の農地はその買收の時である昭和二十二年七月二十四日当時原告等が之を橋本から直接賃借して耕作していたことが明らかであつて、当時南は既に賃借権を有していないから、右農地について令第十七條第一項第五号を適用する余地がないのである。從つて被告の本件裁決は事実を誤認し、法令の適用を誤つたものであり、之によつて原告等の権利が侵害される結果となるから、取消を免れない。

四、右の次第であるから、本訴請求は正当として之を認容すべきであり、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 林善助 厚地政信 吉江清景)

(目録省略)

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